私と犬の出会い、すぐに訪れた別れ

私が犬を身近に感じたのは、確か小学校低学年の時だった。
団地住まいだった私の身近には犬なんかいなかったのだが、たまたま近所の友達と遊びに行った空き地に犬が捨てられていたのだ。
それまでは大きな犬ばかりしか見たことがなく、犬=こわい、というイメージしかなかった私に、生まれて1ヶ月くらいしか経っていない子犬はすごく新鮮だった。
「うっわー、かわい〜。」
なにかの雑種の犬で、耳がちょっと垂れていて、茶色くてころころとしている子犬はたまらなくかわいかった。
でも、後ろ足を一本怪我していてびっこをひいている。
小さくても、保健所、という単語はなんとなく知っていた。
その言葉が頭をよぎる。
「どうする?」
みんなの心に、飼ってあげたいという気持ちが芽生えた。
誰かが言った。
「内緒でみんなで飼おうか?」
全員一致で賛成。こっそり飼うことになった。

翌日からみんなでこそこそあやしかった。
給食で残したパン。家からあやしまれながら、理由を付け牛乳を持ち出す。(今から考えるとすぐにばれるのは当然.....)
そして空き地へ行き、子犬に餌をやってから、走り回って遊ぶ至福の時。
夜には心配だったので、団地の棟の近くの植え込みの中に段ボールを隠し、そこに寝かせて後ろ髪をひかれるように帰る。
そんな日が2、3日は続いただろうか。

当然の事ながら、夜に鳴き出す子犬や、やたらに持ち出される牛乳でばれてしまった。
みんなで、
「おかーさんたちにばれたら保健所に連れて行かれちゃうじゃないか!!」
と半べそをかき、それに負けてしまった母親達が懸命に探したおかげで飼ってくれる人も見つかった。
半泣きになりながら、みんなで子犬とお別れをしたのだった。

しばらくして、そんなことも忘れかけた頃、町外れで犬の散歩をしている人を見かけた。
かたわらには、あれから成長した子犬がやっぱりちょっとびっこをひいて従っている。
飼ってあげられなかったのが淋しいような、飼ってもらって幸せなことが嬉しいような、複雑な気分だったのを覚えている。
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